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科学研究費補助金 特別推進研究 - 物質構造科学の新展開:フェムト秒時間分解原子イメージング

【研究の背景・目的】

分子、生体物質、凝縮系を問わず、物質の機能はその構造と密接不可分の関係にあり、構造制御を通じた新規機能の開拓と創製は、物質科学研究の最大の目的の一つである。20世紀において物質構造科学研究は大きく発展した。平衡状態における分子・固体の構造(核配置)が顕微鏡手法によって原子レベルの分解能で解明される一方、分光学的手法を駆使して物質の非平衡過程における物性解明が大きく進展し、構造変化現象が原子移動の限界時間領域(>10-13秒)で獲得できるまでに至っている。
今世紀に入り、構造科学研究は更に大きな飛躍への幕を開けた。物質機能の根源的理解の基礎を提供する構造決定が「平衡条件下でのみ実現可能」という20世紀の限界が打破され、超高速で変化する非平衡過程における物質構造が時間分解的に決定可能な段階に突入しつつある。人類の物質認識のレベルが大きく革新されようとしている。本研究は、この物質構造科学の一大転換期に、世界に先駆けて、非可逆過程にも適応可能な10-13秒の時間分解能を有する時間分解原子イメージング手法を開発し、それを駆使した研究を推進して、物質構造科学の展開に新たなブレークスルーを切り拓く。

【研究の方法】

非平衡過程における物質構造とその変化の超高速原子イメージングを実現する為に、図1に示す我々が開発した10-13秒の時間分解能を有する世界最高性能の透過電子回折装置を、原子レベル(1Å)の空間分解能を併せ持つ、単一パルスで原子イメージングが可能な時間分解電子顕微鏡に転生させる。

図図1 フェムト秒時間分解電子回折装置  

   

そして、この装置を駆使して、固体の光励起下で発生する、①空間的に非一様な協力的相互作用が顕在化する光誘起構造相転移における核形成・ドメイン動力学・新規秩序形成過程、②電子系高密度励起物質(warm dense matter)における超高速構造秩序変遷過程、③フォトクロミック有機結晶における分子異性化反応過程、等に対して研究を展開し、多体系の構造動力学を直接的知見に基づいて微視的に解明する。
更に、これらの実験的研究とともに、非平衡・非断熱的な構造変遷過程に対して、先端的手法を用いた理論的研究を推進し、統一的理解を確立する。

【期待される成果と意義】

本装置の実現と研究の展開によって、回折像から得られる周期的格子情報(運動量空間情報)とともに、個々の原子の実空間での変位に関する知見が時間分解的に直接獲得され、構造変化の動力学的知見が革新する。本装置のsingle-shot測定能力は、非可逆相転移過程や固体分子化学反応の構造動力学に対する超高速原子イメージングを可能にすると共に、物質との強い相互作用という電子の特徴を最大限に生かして、気相における単一分子のイメージングの実現をはじめ、気相中分子の光化学反応過程の時間・空間分解直接観察の実現に大きく道を拓くなど、励起物質系の超高速構造動力学研究を、質的に新たな段階に突入させる。本研究を徹底して推し進め、分子科学・生物学・材料科学などの広い学問領域を横断する超高速構造科学研究における新たなブレークスルーを切り拓く。

【当該研究課題と関連の深い論文・著書】
・Y. Murooka et al., Appl. Phys. Lett. 98, 251903 (2011)
・J. Kanasaki et al., Phys. Rev. Lett. 102, 087402 (2009).
・A. H. Zewail, Science, 328, 187 (2010).

【研究期間と研究経費】
平成24年度-28年度
302,500千円